社会課題を語り合う

国連を経て、世界を変えるイノベーションを。その時、メディアは何が出来る?【オープン・カフェβ vol.1】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

guest

中村 俊裕

コペルニク代表

coordinator

藤谷 健

朝日新聞社ソーシャルメディアエディター

「ゲスト×記者」の視点が融合することで、新たな気づきが生まれる


 
2014年11月26日、朝日新聞メディアラボの渋谷オフィスで「オープン・カフェβ」が開催された。「社会課題の解決」をコンセプトとしたこのイベントは、毎回のテーマに基づき、ゲストと記者、それぞれのプレゼンテーションで構成される。参加者が講演会のように聞き役に徹することなく、参加者同士で討議をしたり、ゲストや記者と対話をしたり、イベント後の懇親会で交流を図ったりする場として開放される。

 
第1回となる今回の「オープン・カフェβ」は『世界を変えるイノベーション 国連を経て挑戦』がテーマ。ホスト役は、朝日新聞社のソーシャルメディア・エディター藤谷健氏だ。

 
藤谷氏はこれまで、海外赴任などで国際報道に携わり、世界中の途上国の開発問題を目の当たりにしてきた。しかし記事を発信するだけでは、社会課題の解決の中で「プレイヤーになれない」という壁が立ちふさがり、メディアの果たすべき役割を考えるようになったという。そして自ら「取材や知見を照らしながら目利きのできる情報のソムリエとして、大切なことを発信・共有していこう」という結論を導き出し、そのなかで出会ったプレイヤーの一人が今回のゲスト、コペルニク代表・中村俊裕氏だった。

 
中村氏はもともと国連に勤めていたが、援助の世界は政府や国連などが長期的なスキームで物事を決めていくところがあり、ほかの人たちが入っていきにくい実状に気づいた。また「すぐに目に見える成果がほしかった」と、民間団体として貧困問題の解決を図る「コペルニク」を立ち上げた理由を話す。「世界中に次々とベンチャー企業が生まれていたので、これを活用し、新しいイノベーションを起こせないかと考えた」と中村氏。こうして、コペルニクの支援モデルを構築していった。

企業と支援者を仲介して、貧困国にテクノロジーを届けるコペルニクモデル


 
例えば途上国には、ご飯をつくるのための薪を運ぶのが日課の子どもたちがいる。しかし調理に薪を使えば、部屋の中に煙が充満し、それが原因で死亡する事例も後を絶たない。薪拾いにかける時間は子どもから教育の機会もうばってしまう。他にも、灯りの少ない灯油ランプを使ったり、汚れた水を生活に使ってたりしている人たちがいまだ大勢いるのが世界の現状だ。そうしたなか、必要な人に必要なものを確実に届ける手法を編み出した。

 
核となるのは、テクノロジー開発者である世界各地のベンチャー企業。彼らは、薪の使用量を抑える調理器具や太陽光ランプ、浄水器など、貧困問題に苦しむ人たちの社会課題解決を担うテクノロジーを生み出している。コペルニクはまず、そうしたベンチャー企業とテクノロジーを見つけてくる。

 
次に、そうしたテクノロジーをインターネット上などで公開し、各途上国のNGOなどに知らせ、NGOを現地パートナーとして、どのように届けるか、プロジェクトを具体的な段階にまで落とし込んでいく。

 
最終段階。それらのプロジェクトが世界中に発信され、支援が募られる。各プロジェクトに興味を持った支援者からの寄付金が集まり、それを資金としてテクノロジーが途上国に送り込まれる。とはいえ、現地に無料で配布することはない。寄付金を使って、ある程度安価にまで値下げした価格で現地の人たちにテクノロジーを購入してもらい、そのお金をまた次の普及活動に役立てている。 これが、テクノロジー開発者であるベンチャー企業、現地パートナー(NGO)、支援者の3者を仲介するコペルニクの支援モデル。支援者の立場になったとき「どこのどんな人に何が送り込まれるのか」が明快で、寄付もしやすくなる仕組みだ。

援助の世界に、営利と非営利の境界がなくなってきた


 
中村氏は自身の活動を踏まえたうえで、最近の支援活動の特徴として「さまざまな境界がなくなっている」ことを指摘する。コペルニクの活動メンバーは多国籍で、支援者を見ても「単に利益を上げたい企業」や「寄付をするだけの支援者」だけでなく、「利益追求だけでなく社会貢献もしたい企業」「自分たちの収入も確保したうえで寄付も行いたい団体」など、「営利・非営利の間の立場」も現れてきた。それに伴ってお金の流れも多様化し、途上国支援の現場に新たなアイデアが生まれていく。

 
プレゼンテーションの後に行われた質疑応答では、参加者から藤谷氏へ「プレイヤーになりたいと思うことはないか?」と、率直な質問がぶつけられた。藤谷氏は「万一、ジャーナリストとして発信ができなくなれば考える」としたうえで、「デジタルメディアなどが立ち上がっていて、まだ可能性を秘めているメディアに身を置いていたい」と答えた。それに続いて中村氏も「藤谷さんは『プレイヤーじゃない』と謙遜されるが、僕らのような無名の団体を知ってもらうのにメディアの力は莫大で、ある意味、藤谷さんたちもプレイヤーなんですよ」とプレイヤーとメディアの関係性を説いた。

 
イベントに参加したある女子学生は、もともとコペルニクの活動に興味があり、かねて中村氏と対話できる場を探していたという。彼女は「社会起業に関わってみたかったのですが、営利性の問題から難しいと教授から言われていた。でも中村さんから『境界がなくなっている』との言葉が出たことは心強いものでした」と感想を述べた。また、普段はIT系の仕事に就いている男性は「非常に開かれた場で、ほかの参加者の質疑から得た気づきもあり、有意義な時間だった」と話した。このイベントで新しい気づきを見つけた参加者はほかにも多かっただろう。

 
「オープン・カフェβ」は、朝日新聞社が主催する「未来メディア塾」の新しいイベントとして開催されたもので、来年以降も毎月開催していく予定だ。また未来メディア塾では、アイデアソンやセミナーなども予定しており、来年には「イノベーション・キャンプ」として、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科准教授の神武直彦氏がファシリテーターを務める『メディア×テクノロジーで社会課題解決に挑む2日間』を予定している。

  • guest中村 俊裕

    コペルニク代表

    ラストマイルの人々にシンプルで革新的なテクノロジーを届けるため、2010年コペルニクを共同創設。国際開発、経営コンサルティング、アカデミック分野での幅広いキャリアを積む。過去10年間は国連に勤務し、東ティモール、インドネシア、シエラレオネ、アメリカ、スイスを拠点としてガバナンス改革、平和構築、自然災害後の復興などに従事。国連の前職はマッキンゼー東京支社で経営コンサルタントとして活躍。京都大学法学部卒業、英国ロンドン経済政治学院比較政治学修士号取得、現在、大阪大学大学院国際公共政策研究科で招へい准教授。2012年には世界経済会議(ダボス会議)のヤング・グローバル・リーダーに選出される。また、同会議の持続可能な開発における「グローバル・アジェンダ委員会2014-2016」メンバー。2014年、ユニセフ「インドネシア・イノベーション・ラボ」アドバイザー。著書に「世界を巻き込む。」。

  • coordinator藤谷 健

    朝日新聞社ソーシャルメディアエディター

    1987年、国際基督教大学(ICU)卒業後、朝日新聞社入社。在学中、フィリピンの大学に留学。宇都宮、札幌を経て、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)で開発学修士。ローマ、ジャカルタ、バンコクに駐在するなど、主に国際報道畑を歩む。途上国の開発問題や日本の国際協力、アジアやアフリカがテーマ。英語のほか、インドネシア語やタイ語を話す。

社会課題を語り合う