社会課題を語り合う

「障がい者」という言葉を無くしたい―障害を「楽しむ」未来を、ロボット技術は創れるか

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speaker

遠藤 謙

株式会社 Xiborg 代表取締役 ソニーコンピュータサイエンス研究所アソシエイトリサーチャー

coordinator

嘉幡 久敬

朝日新聞東京本社科学医療部記者

可能性と課題、ロボット技術のいま

 「ロボットの最新市場から見える社会課題解決の兆し」をテーマに、未来メディア塾のオープン・カフェβ Vol.3が2015年3月11日に開催された。冒頭でコーディネーターを務めた朝日新聞科学医療部の嘉幡久敬記者が、現代社会でのロボットの利用状況や人工知能等を含む最先端のロボットのさまざまな可能性と課題を提示した。
 

  例として、ソフトバンクのPepperや掃除機ロボット、ドローン、自動運転自動車等、最近話題になっているロボットを筆頭に、AIBOユーザーによって行われた葬儀のニュース、福島原発の事故現場でのロボット活用の現状と課題、アメリカの災害対応用ロボット競技大会での日本のベンチャー企業の活躍、ロボットが労働環境・経済・軍事・ネットワーク等に及ぼす影響等を挙げた。
 

 テクノロジー企画取材班で人工知能・バイオ技術・ロボティクス・ビッグデータ等の取材をしてきた嘉幡記者が、今回のゲストスピーカーとして白羽の矢を立てたのが株式会社Xiborg (サイボーグ)代表取締役・ソニーコンピュータサイエンス研究所研究員・遠藤謙氏。その理由は、遠藤氏のロボット技術を生かした取り組みが実践的な研究・開発だからだという。
 

ロボット技術を使って、障害者がそれまではできなかったことまでできるようになる。


 

 遠藤氏はまず「僕はヒューマノイド・ロボットを研究してきましたが、今はロボット技術を使って何かをするという立場でロボットに携わっています」と自身の研究スタンスを伝えた。左足切断を余儀なくされた後輩のためにそれまでやってきた研究が役に立つのか疑問に感じ、両足下腿を切断しながら切断前より優れた記録を義足で残しているクライマーのヒュー・ハー教授のことを知り、研究対象をロボット技術を活かした義足に変えたという。「世の中には身体障害というものはない。

 
ただ、テクノロジーに障害があるんだ」という発言を引用し、ハー教授から受けた感銘を「障害と思うどころか、それまでできなかったことまでできるようにした。障害を乗り越えるだけではなく楽しむ領域にいっている。そういう社会はいいなと思った」と表現した。
 

ロボットを作って売るだけではなく運用が大切。使った人の笑顔をモチベーションに。

 現在、遠藤氏は途上国向け義足・競技用義足・ロボット義足を研究・開発している。義足を必要としている障害者の半数以上がいる途上国で製造できる安価な義足を開発する。競技用義足を開発するサイボーグには元オリンピック選手の為末大氏とデザイナーの杉原行里氏が参加し、陸上チームも運営している。バッテリーやモーターを搭載したロボット義足は障害者だけでなく高齢化社会も見据えていて、ある病院の発案から生まれたリハビリ機器にはロボット義足の技術がそのまま転用されているという。 

「例えばリハビリ機器の目的はリハビリ効果を高めること。開発・販売だけでなく運用が大切だと思います。アウトプットが目に見えること、義足を使った人が笑顔になることが大きなモチベーションです」と語るように、彼の研究はすべて実用に直結している。
 

健常者と障害者の間にあるのは線ではなくグラデーション。そのグラデーションを薄くし、なくしたい。


 
 「僕は障害者と健常者に明確な区別はないと思っています」と言いながら、遠藤氏は健常者と障害者の間に線が引かれた画面から健常者と障害者の間がグラデーションで示された画面にスライドを切り替えた。例えば、年を取れば足腰が弱り、いずれ歩けなくなるかもしれない。健常者も年齢とともに徐々に障害者になっているというのだ。

 
「義足に代表されるようなテクノロジーによってグラデーションの色を薄くしたり、健常者以上のことができるようになるかもしれない。そうなったら“障害者”という言葉も要らなくなるんじゃないか。そうした社会を夢見ています」とロボット技術の活用で実現しうる未来像を描いてみせた。
 

質疑応答と懇親会で議論を深め、そこから参加者同士のつながりが生まれる。

 オープン・カフェβでは質疑応答と懇親会に長い時間を充て、質問を参加者同士が一緒に考えることで全員の参加とコミュニケーションを促す。今回も、実際にロボットの運用に携わる人から大学を卒業してこれから就職するという人まで多彩な参加者が集まり、質疑応答でも経済性や安全性、規制、医療の発展との関係、日本の研究者や研究体制といった話題から、夢を実現するのに必要なことは? といった質問まで幅広く議論された。その中で遠藤氏は「2020年に100m走で障害者が健常者より速いタイムで走ることを実現して社会の見る目を変えたい」と語った。

  参加者がロボット開発者ばかりではないオープン・カフェβについても「改めてメディアの役割が大きいと感じた」と述べた。嘉幡記者も事前の雑談の中で「メディアは見栄えのいいロボットばかり紹介したがる」という話が出たことを明かし、メディアの責任の大きさを改めて痛感したという。まだまだ未知の領域の大きいロボットの可能性と今後の社会の在り方について、参加者それぞれがさまざまな角度から多くの新たな知見を得たようで、懇親会でも時間ギリギリまで熱い議論が続いていた。

  • speaker遠藤 謙

    株式会社 Xiborg 代表取締役 ソニーコンピュータサイエンス研究所アソシエイトリサーチャー

    2001年慶應義塾大学機械工学科卒業。2003年同大学大学院にて修士課程修了。
    2005年より、マサチューセッツ工科大学メディアラボバイオメカニクスグループにて博士課程の学生として、人間の身体能力の解析や下腿義足の開発に従事。2012年博士取得。一方、マサチューセッツ工科大学D-labにて講師を勤め、途上国向けの義肢装具に関する講義を担当。現在、ソニーコンピュータサイエンス研究所アソシエイトリサーチャー。ロボット技術を用いた身体能力の拡張に関する研究に携わる。また、途上国向けの義肢装具の開発、普及を目的としたD-Legの代表、途上国向けものづくりビジネスのワークショップやコンテストを主催する See-Dの代表も務める。
    2012年、MITが出版する科学雑誌Technology Reviewが選ぶ35才以下のイノベータ35人(TR35)に選出された。また、2014年にはダボス会議ヤンググローバルリーダーズに選出。

  • coordinator嘉幡 久敬

    朝日新聞東京本社科学医療部記者

    1989年、東京工業大学大学院修士課程修了、朝日新聞社入社。仙台、宇都宮両支局を経て、主に東京・大阪本社の科学医療部で地震災害、医療(臓器移植、感染症)、原子力、科学技術行政などの報道にかかわる。福島第一原発事故はデスクとして担当。昨年4月より、本紙テクノロジー企画取材班で、人工知能やバイオ技術、ロボティクス、ビッグデータなどの取材をしている。趣味は絵、食器。1965年2月4日生まれ(50歳)

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