社会課題を語り合う

「地震きても大丈夫」って言える? 今日からできる防災対策を専門家と一緒に考えてみよう

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夜、仕事を終えて家に帰り、ホッとひと息ついてテレビをつけようとしたとき。もしもその瞬間に突然、大きな揺れを感じたら、あなたは瞬時に自分の身を守れますか?
 
地球全体で見ると、日本は周辺の海域を含めても1%ほどしかその面積を占めていません。もしも大きな地震が世界中で均等に起きていれば,日本で起きる地震の数だって1%に満たないはず。……でも実際には、その10倍もの地震が日本で起きているのです。
日本列島は、何枚もの岩盤がぶつかり合う地震の巣にあり、内陸の直下には至るところに活断層があります。日本は、震度5弱以上が観測される地震が毎年数回から数10回発生する“地震大国”です。
 
家にいるとき、職場にいるとき、電車に乗っているとき――。この国では、いつ、どんなシーンで大地震が起きたとしても、何も不思議ではありません。
 
一般参加者と専門家、朝日新聞記者がともに考え社会課題の解決策を探る「未来メディアカフェ」。14回目となる今回のテーマは、ずばり「地震きても大丈夫?」です。
今回の未来メディアカフェの会場は、江戸時代に火災の延焼を防ぐ「火除地」があったことなどで知られる防災ゆかりの地、東京・秋葉原。通りがかりの訪日・在住外国人の皆さんに、地震を疑似体験できる“起震車”に乗ってもらい、その感想をお聞きする体験イベント形式で開催されました。
 
運営に参加したのは、慶應義塾大学の大木聖子先生(地震学)と大木ゼミの学生グループ、朝日新聞の黒沢大陸記者、一般参加のチーム「1点GO」のメンバー5人、そして東京都に登録している防災(語学)ボランティアのグループ、防災安全協会、NPO法人防災バンクの皆さん。2017年7月1日に行われたイベント当日の様子をレポートします。
 

「地震が1日に700回!?」

 
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▲起震車体験をする外国人の方
 
震度3から震度6までの揺れが体験できる起震車。自分の座った椅子が大きくガタガタと揺れ始めると、体験者の多くは驚いた様子でテーブルを押さえます。
 
韓国から観光で訪日したという若者のグループに起震車に乗った感想を尋ねると、「びっくりした!」。揺れがくる準備ができていたので怖くはなかったものの、「もしこの強さの揺れが突然きたら、絶対にパニックになると思います」と語りました。
 
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▲起震車体験を終えたアメリカ人のグループにインタビューする大木聖子先生
 
「日本では、体では感じない小さい地震も含めて、1日に何回くらい地震が起きていると思いますか?」
これまでに一度も地震を経験したことがない、というアメリカ人のグループにそう聞いてみると、「1日に? ……ひと月にじゃなくて?」という反応が。そもそも1日に何回、なんて頻度だとは思っていなかったのでしょう。正解は1日に約700回と言うと、全員、「1日に!?」と唖然とした様子でした。
 

日本人でさえも、まだまだ地震は“自分ごと”ではない

 
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▲チーム「1点GO」の皆さん
 
こうした訪日外国人の驚きが相次いだ今回のイベント。そのコンセプトは、昨年開催された『未来メディアキャンプ』のワークショップの中で生まれたアイディアを具現化したもの。発案は、未来メディアキャンプのワークショップに参加した黒沢大陸記者と一般参加者で構成するチーム「1点GO」です。
 
黒沢記者とチーム「1点GO」のリーダー・浅井大輔さんは、今回のイベントのアイディアが生まれた背景をそれぞれこう語ります。
 
「地震に関する取材を長い間してきて一番感じているのは、防災に対して熱心な人がいる一方で、まったく関心を持っていない人もいるということです。防災に関心のない人たちをどう振り向かすか、というのが未来メディアキャンプでの課題でした」(黒沢記者)
 
「今回、海外の人をターゲットにしたのは2つ理由があります。まず、起震車の体験をSNSなどでシェアしてもらうことで、“外国の人が防災に関心を持っている”というところから日本人も興味を持ってくれるんじゃないか、というのが1点。
 
そして、まったく地震を体験したことのない海外の人の中には小さな揺れでも慌ててしまう方が少なくないので、こういった体験を通して少しでも地震に備えてほしい、というのがもう1点です」(浅井さん)
 
イベントで起震車体験した直後の外国人にチーム「1点GO」のメンバーがアンケート形式で聞き取りしたところ、地震に不慣れな外国人の方々からは、「揺れを体験する機会になってよかった」「対策が知りたい」「地震対策ではどういうものが必要なのだろうか」といった声が驚きとともに集まりました。
 
外国の方に限らず、日本人でさえもまだまだ防災を“自分ごと化”できていない、と黒沢記者。
 
「日本はこれまでに大きな地震を何度も経験していますが、すべての地域で近年に大きな地震があったわけではないので、みんなが同じ体験を共有できているわけではないんですよね。
震災企画の会議で、取材チームに“自分の家の家具を固定しているか”と聞いたら、それさえしていなくても平気な記者もいて、驚いたことがあります。大きい地震がきて取材に行かなくちゃと思っても、生き残り、無事でなければ行けません。でも、みんなそのくらい地震を“自分のこと”だと思えていないんですよ」
 

マグニチュード7クラスの地震は、日本全国どこでも起きうる

 
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▲日本列島の震源分布図で説明する大木先生と黒沢記者
 
日本人は小さな揺れに慣れている分、地震がきても「どうせ大丈夫だろう」と思っている人が多い――。そう語るのは、地震学や災害情報、防災教育を専門とする慶應義塾大学の大木先生です。
 
「大きな地震は自分の地域では起こらない、と思っている日本人は意外と多いです。たしかに津波を伴う巨大地震が起きる可能性があるのは太平洋側に偏っていますが、阪神淡路大震災や新潟中越地震と同規模の、マグニチュード7クラスの直下型地震は、北海道から沖縄まで日本全国どこでも起きうるんです」
 
実際に突然大きな地震がきたら、どうしていいか分からないという人は多いはず。その正しい対処法は、国によってもまったく違うそう。
 
「建物の耐震性が高くない国では、地震が起きたらすぐに家の外に出なさい、と教えられていることも多いのですが、日本で同じことをしたら交通事故死してしまう可能性もある。海外の人には、日本で地震がきても、耐震性のあるホテルに泊まっている限りは、そのまま中にいても大丈夫ということをまず知っていてほしいです。
 
そして、もし実際に大きな揺れがきたら、机がある部屋の場合はその下にもぐり、机の足の真ん中より上を持ってください。周りに何もない場所の場合は、両手・両膝を必ず床につけてください。立っていられないくらいの揺れが10秒続いたら、その時点で“直下型地震が起きた”と判断すべき。公共交通機関が止まったり、余震も起こるということまで考えてください」
 

直下型地震は、対策さえすれば命は守れる

 
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▲起震車体験の受付に集まった外国人の方々と、説明を行う東京都の防災(語学)ボランティアさん
 
日本を訪れるにあたって、地震が起きるリスクがあるとは思ったか。起震車の体験を終えた外国人の方にそう聞くと、多くの方が「地震があるかもしれないとは思ったけど、そこまで深刻には考えなかった」と答えました。
 
もちろん、油断は絶対に禁物。しかし、「直下型地震は、対策さえすれば命は守れるんです」と大木先生は言います。
 
「まずは家の耐震性を担保することが一番です。日本では、1982年以降に建てられた建物には十分な耐震性があるとされていますが、それ以前の建物であれば耐震補強をすること。
そして、家具を固定するのもとても大切です。自分より背の高い、重い家具は突っ張り棒で固定して、年に2回程度は緩んでいないか確認するようにしてください。家具の転倒防止用グッズは、いまはネットショップやホームセンターでも簡単に手に入ります」

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▲大木先生や学生たちがそれぞれ実際に使っている「My防災ポーチ」を見せてくれました
 
では、外出しているときに地震がきた場合には、どうすればいいのでしょうか。その答えを教えてくれたのが、大木先生のゼミに所属する学生たち。大木ゼミの皆さんは、男子も女子も全員、「My防災ポーチ」をつくって持ち歩いているのだそう。
 
「防災リュックを持ち歩くのは現実的ではないので、“防災ポーチ”をつくることを薦めています。入れるものは、大きく分けて『誰でも必要なもの』、『あると便利なもの』、『あると自分がホッとするもの』の3つ。
 
誰でも必要なものはLEDライトやホイッスル、常備薬など。あると便利なものはウエットティッシュや携帯電話の充電器などですね。ホッとするものは、私の場合は地震の際に情報源がほしいので、携帯ラジオを入れています。PCのコネクターなど、震災時以外でも必要なものも一緒に入れてしまうと持ち歩くようになるので便利ですよ。かばんを替えたらポーチだけ入れ替えればいいので」(大木先生)
 
他にも、大木ゼミの男子学生は「歯ブラシとひげ剃り」を、黒沢記者は「ようかん」を入れているそう。
 
「自分の好きな食べ物を入れているとつい食べてしまうので、そこまで好きじゃないものを入れるのがポイントです(笑)。とはいえ、定期的に入れ替える必要もあるので、たまには食べて、補充するようにするといいと思います。
ホイッスルやライトは、万が一自分に救助が必要になったときにも、救助が必要そうな人を見つけたときにも役に立つので、ぜひ入れておいてほしいです」(黒沢記者)
 

家族と一度だけ話し合って、非常時のための“ルール”をつくっておく

 
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▲大木先生
 
チーム「1点GO」が実施した対面式アンケートでは、「地震が起きたら、どこに避難すればいいのだろう」「災害時にはどこに行って、どのような行動をとればいいのだろうか」といった外国人の声が複数ありました。東日本大震災の際は、家族の安否が気になって無理に帰宅しようとした人が多数いたと大木先生は話します。
 
「人を心配して無理に帰る、というのを美談にしてはいけません。必要なのは、家族と話し合って非常時のルールを決めておくこと。家の耐震性を担保して、火災が起きたらここに逃げる、という場所を2か所以上決めておく。それに、非常時に安否を確認する方法についても、171伝言ダイヤルを使うなどきちんと話しておく。それさえ徹底していれば、地震が起きてばらばらの場所にいても“お互いが最善を尽くしているはず”と信じられるはずなんです」
 
津波被害の多い三陸地方には、古くから伝わる「津波てんでんこ」「命てんでんこ」という言葉があるそう。「てんでんこ」とは「めいめい」「それぞれ」の意味で、「津波がきたら、人に構わずにそれぞれ逃げろ」「自分の命は自分で守れ」という標語なのだそうです。
 
「“命てんでんこ”を家族全員が心がけてさえいれば、たとえ地震がきても、数日経ったら必ず会えます。
実際に東日本大震災のとき、岩手県大槌町に住む私の知人の小学生の息子さんは、3日間ひとりで学校に避難していたにもかかわらず、お父さんは必ず生きていると信じて安心して待っていたそうです。震災から3日経ってやっとお父さんに会えたとき、『あんなに“命てんでんこ”と口うるさく言っていたお父さんが死ぬわけないと思ってたよ』と笑顔で話したそうで。そういった家族の物語を、皆さんもあらかじめ用意していてほしいと思います」
 
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▲防災安全協会・防災バンクが、東京都の防災(語学)ボランティアと協力して、備蓄用の非常食と水、ブランケットのセットを配布した
 
日本にいる限り、いつでも大地震に遭う恐れがある。頭ではそう分かっていても、そのための対策が常に万全にできているという人は、なかなかいないはずです。
 
今回のイベントでは、起震車体験をしてくださった訪日・在住外国人の皆さんと同じくらい、取材をした日本人の筆者でさえも、“防災”に対する知識がほとんどゼロであることに気づかされました。
 
自宅の耐震性を確かめる、防災ポーチをつくる、非常時のルール決めをしておく……。どれも、週末に家族が一度集まればできることです。いつかやろう、ではなく、どうかこの機会に、地震のための対策をしてみてください(筆者は取材のあと、防災ポーチをつくりました)!
 

社会課題を語り合う